2023年11月6日月曜日

相互理解のための日本語!

 #ドイツ #2004年 #愛・家族・友情 #日本語学習理由 #HOSHI TORU

授業中は一向に存在感がないが、授業が終わるとがぜん存在感を発揮する生徒がいる。またそれとは別に、授業中も授業外も常に影が薄いが、あるエピソードのためにどうしても忘れられないという生徒もいる。

ドイツのケルンに国際交流基金が運営する日本文化会館というものがあり、そこで開講していた一般向け日本語講座で一時教えていたことがある。その講座に通ってくる生徒はケルン市内及び周辺の大学に通う学生や社会人が多く、各国の一般向け日本語講座のなかでは男子生徒の比率が比較的高いのが特徴かと思う。

学習動機の多くは趣味だったり、日本文化に対する関心だったりだが、その当時のドイツでは日本文化と言ってもまだJ-POPやアニメよりも、日本美術や禅、KUROSAWAやKITANO(たけし)に代表される日本映画などに関心が高かった。盆栽が趣味という生徒も多かった。また「希少言語」(!)への関心から日本語を学ぶという生徒も何人かいた。

また日本人女性と結婚した旦那さんが、奥さんや子供と日本語で話したいという健気な理由から講座の門をたたくというケースも珍しくなかった。教室でかなり浮いていたある若い研修医の男子生徒から、一度「ご家族でうちに遊びに来てください」としつこく誘われて根負けし、ある日妻と子供を伴って訪ねると、奥さんは日本人で5歳ぐらいの娘さんとの3人暮らし、家ではドイツ語より日本語が優勢言語で、旦那はマイノリティー化しており、彼がなかなか日本語が上達しないことが奥さんにはかなり不満であることが時間を追うごとに判明してきた。今回の招待も奥さんがすべて計画した(仕組んだ?)ことであった。ともあれ、その晩は奥様の手作りの日本料理をおいしくいただきながら、奥様の日本語での愚痴とのろけをたくさん聞かせていただいた。ごちそうさまでした。その後、彼の家族とは文字通り家族ぐるみのお付き合いをしてもらい、何度も楽しい時を過ごさせていただいた。教室ではほかの生徒の手前、お互いポーカーフェースを決め込んだが、彼はその後多忙のため講座を休みがちになり、まもなく中退してしまった。彼にとって、あるいは奥様にとって、彼の日本語講座受講の目的はすでに達成されたのかもしれない。

同じ日本語講座にそれまで熱心に通っていた別の男の学生が、ある日の授業前にやってきて、「(日本人の)恋人と別れたので、今日でもう日本語はやめます。」というのだった。私はそれを聞いて、「なんだって!そんなことで、せっかく今まで頑張った日本語をやめていいの?てゆーか、今まで、そんな不純な(!)、軟弱な(!)理由で講座に通ってきていたわけ?」と内心腹を立てた。しかし、今考えてみると、それはまさに、この上なくまっとうな、正当な、純粋な、学習動機にちがいない。これこそが『相互理解の日本語』でなくして一体何であろう。

1 件のコメント:

  1. ほんとですね。わたしはこういった動機の方々の学習を勝手に「寝物語アプローチ」と呼んでいます。酔った勢いで学ぶ「アルコホールアプローチ」と並んで強力な学習方法だと、これも勝手に思っています。(^▽^)/

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