2023年11月8日水曜日

まあ、いいや

 

#タイ #1997 #かん違い #ご当地語 #発音 #日本語ムズカシイ #HOSHI TORU

 

日本語教師ならだれでも経験があるだろうが、日本語コースの初級後半とか、中上級ぐらいになった学生から「日本語は難しい」とか「難しすぎる」とか、弱音とも抗議ともつかないコメントを聞かされることがある。時によっては初級の最初の段階から、そういうことを言ってくる学生がクラスに一人ぐらいいることもある。そうしたときにどういうリアクションをとるかは教師によっていろいろだと思うが、私の場合、おおむね「日本語が難しいんじゃなくて外国語はみんな難しいんだよ。あなたたちは日本語が難しいと思っているけれど、私から見れば○○語(学生の母語)のほうがずっと難しいと思うよ。私の○○語より、あなたの日本語のほうが100倍じょうずだよ。」というような答えでお茶を濁している。あるいは居直り方式をとって「難しいでしょ?だから勉強するんでしょ?簡単なら学校に来なくても一人で出来るでしょ?難しいから面白いんじゃないかな。」みたいな。実のところ、一番声を大にして言いたいのは「日本語が難しいだって?そんなの私のせいじゃないから」と言い放ってしまいたいのだが。

タイのバンコック郊外にあるタイ商工会議所大学と言う、比較的裕福な会社経営者の子女たちが多く通う大学の日本語学科で教えていた時がある。ある夏、普段の日本語専攻の学生ではなく、他学科の教養科目として日本語の短期コースを担当したことがある。ほとんどはゼロ初級の学生ばかりで、初日はお決まりの挨拶と自己紹介から入るはずだった。ところが出席をとり終わって、いざ授業にかかろうというところで、1人の男子学生が「先生、日本語は難しいですね。」と英語で話しかけてきた。ゼロ初級なので英語なのだが、その当時のタイでは英語でコミュニケーションの取れる学生はそれほど多くなかった。ゼロ初級なのになぜ日本語が難しいという判断ができるのか興味深かったが、私はとりあえず上に書いたような受け答えをして、早く授業に入ろうと若干苛ついていた。英語でやり取りをしているうちに、もう授業時間が15分以上過ぎてしまっていた。ほかの学生の手前もあり、このやりとりをもういい加減切り上げたかったのだ。そこで、彼はまだ何か言っていたが、私は「まあ、いいや。それでは、みなさん・・・。」と全員にむかって切り出した。すると、件の男子学生が、どうやらさらに食い下がってきた。今度はタイ語で「ヤーㇰ!ヤーㇰ!」と言っている。『ヤーㇰ』がタイ語で「むずかしい」の意味だということは知っていた。語末の小さい「ㇰ」はいわゆる内破音と言って、破裂音の「ク」と調音点は同じだが、息を外に出さず口の中で呑み込むように発音するので、外からは実際には聞こえない。

「そうか!」その時私は気が付いた。私が「まあいいや」と言ったのを彼はタイ語の「マイ ヤーㇰ」(「むずかしくない。」マイは否定の助動詞)と聞いたのだ。日本語の(関東語の)イントネーションで「まあいいや」と言うと、まさしくタイ語の、正しい声調の「マイ ヤーㇰ」の発音に聞こえてしまうのだ。

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