長年日本語教師をやっているといろいろな仕事を経験する。教材作りはきっとみなさんやったことがあるのではないだろうか。教材作りといっても授業で使う簡単な練習問題のようなものから長い時間かけて開発する1冊の教科書、最近ではオンラインで日本語を学ぶためのウェブサイトやツール、アプリの開発までいろいろなものがあると思う。
ある国で教科書の制作を手伝っていた時のこと。原稿もすべてそろい、あとは音声の録音だけという段階になっていた。日本語発音のチェックのために一緒に来てほしいと現地の先生に頼まれて録音スタジオについて行った。声優さんはみなさんボランティアの日本人協力者だったが最近の若い人はこういうことになれているのか、何も問題なく録音を終え、オフィスに戻った。しばらくして担当の先生がこまった顔で私に言った。
「先生、一つ録音するのを忘れていました。」
「ええ、そうですか。」
「ここには日本人は先生だけですから、今からその部分だけおねがいしてもいいですか。」
わたしは仕方がないので、「はい、私の声でよければお手伝いします。」
「よかった、それじゃあ、原稿はこれです。」
原稿を見てわたしはおもわず、「ええっ、これですか。わかりました。がんばります。」
原稿には、①パオーン、②ワンワン、③ニャーニャー、④コケコッコー、⑤ヒヒーン、などと書かれていた。
その教科書は今でも某国で販売されていて、多くの学習者がそれを使って日本語の勉強をしている。音声データも豊富で評判もいいと聞いている。日本語では動物の鳴き声はどういうのか、今日も誰かが私の声を聴いて学習している。
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